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今日、約束の場所へと向かっている。
早朝、家を出て故郷へと車を走らせる。
胸の内にうずまくこの感情は一体、どう名づけたものかーー今日という日が近づくにつけずっと考えていたが、どうにも答えが出せないまま。
喜び、悲しみ、希望、絶望、不安、慈愛、怒り、羨望、嫉妬、敬慕、侮蔑……いや、それとも、やはり。
*
約束はもう、10年来のものになる。
10年前のこの日、僕らの故郷の街はずれにある森のなか。古い大きな樫の木の下で、僕は唯一無二と思っていた親友に突然、別れを宣告された。10年後の今日、この樫の木の下で再会する、ただそれだけを約束に残して。
何がなんだかわからなかった。
彼はほんとうに突然、僕の目の前から消えた。僕にさえもなんの相談もなく計画を練り、着々と準備をすすめて旅立ったのだ。
あの時、15歳の中学三年生だった僕はもう25になり、人並みに就職もした。
彼があの時、何を考えていたのか、今となってはもうわからない。
彼の家庭や学校での人間関係、僕はすべて見てきて、一番近くで支えていたつもりだったけど、それでもまさか、彼があんな大胆なことをするなんて……どうしても信じられなかった。
彼を見送ってからの10年、僕はこの日が来ることをずっとずっと、待ち続けていたのだ。
思春期から青春期を経て、一社会人としての大人へ。家族も友人も恋人も、目まぐるしく変わるまわりの環境のなかに必死に溶け込みながらも、ずっと指折り数えてこの日を待った。
晴天に恵まれた今日この日、僕の心だけはまるで嵐のようだった。
どんな顔をして彼を迎えよう。いや、果たして本当に、約束どおり彼はやってくるだろうか。
たどり着いた故郷の街に車をすすめ、森のそばで停めた。小路を分け入り、樫の木を目指す。ひたひたと下草を踏む足音とともに、胸の鼓動もひたひたと高まっていく。
樫の木はすっかり切り倒されて、切り株だけになっていた。
約束の時間は正午。僕は時計を確認する。
待ち受けのデジタル時計が正午を示した時、文字通り、青天の霹靂のような轟音がとどろいた。
僕の心臓が、がつんっと大きく跳ねた。
ごくりと唾をのみ、ゆっくりと振り返る。
「おお!」
瞬間、すべての感情が突き抜けたように吹き飛び、僕は不覚にも、ただひたすら滂沱の涙を流した。
「あんた、直樹だよな? やったぞ! 大成功だ!」
親友が15歳のあの日のままの姿でーー若く、無邪気に、僕の顔を見て太陽のように笑ったから。
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