人生最期のラヴ・レター

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拝啓  この手紙がきみに届くころ、僕はもうこの世にはいないのでしょう。  ……なんて、大袈裟な書き出しを考えてみたけど、あながち嘘じゃないんだな、これが。  もちろん、僕はいたって健康体だし、長生きするつもりもある。ただ、僕がきみを遺して死んだときのことを考えて、まだまだ死ぬつもりのない若いうちからこうして手紙を書いている。変だねって、きみは笑うだろうか。笑ってくれたらいいな。  さて、本題に入ろうか。僕はきみと幼馴染として出会った。小さいころから長い時間をともに過ごしてきて、だれよりもきみを理解している自信があるけれど、どうしてもいまだにわからないことがある。十年前のあの日、どうしてきみは泣いたのか。  きみは泣く必要なんてなかった。僕がみんなから距離を置かれたのは無力で頼りなかったせいで、つまりは僕自身のせい。泣くなら僕ひとりが泣けばよかっただけのこと。それなのに、きみは一緒になって泣いてくれて、理不尽だと怒ってくれた。その日見た夕陽は今まででいちばん綺麗だと思ったし、夕陽に照らされ朱に染まったきみの頬は、僕の目にはだれよりもうつくしく映った。思わずため息がこぼれたほどだ。  あの日、僕は誓ったんだ。今度はきみのいちばん近くで、僕がきみを笑顔にする番だと。  回りくどい話はやめにしようか。今日、僕はきみにプロポーズをするつもりだ。僕はきみが受け容れてくれると信じているけれど、きみが断ったら、この手紙はひっそりと闇に葬り去られることになるだろう。だから、僕はこの手紙がきみに届く日が来ることを願うよ。 P.S. どうしてこんな手紙を書いたのかって? 僕はきみが思っているよりずっと寂しがりで、ずっと欲張りなんだ。僕が死んでも、きみが僕のことを忘れないでいてくれますように。一生、僕だけのものでいてくれますように。そんな祈りを込めて、僕は筆を取った。だからきっと、これはきみが受け取る人生最期のラヴ・レター。もし僕が死んだ後に言い寄ってくるような輩がいても、どうか相手にしないでね。なぜなら僕が妬いちゃうから。
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