もしかしたら君に宿るかもしれない命

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冷たくなった僕の頬を撫でながら、小春ちゃんがポロポロ泣く。 パパもママも座り込み、僕の胸や口に手を当てて、何度も何度も息がないのを確かめながら、大粒の涙をこぼしてる。 僕の命はたったいま、役目を終えた。 良い人生だったよ、ほんとうに。 やさしい人達に囲まれて。 身体の調子が悪くなってから、「あれ?」と思っているうちにゆっくりご飯が食べられなくなって、最後は横になっていることしかできなかったけど、みんなずっと傍にいて、僕との時間を大切にしてくれた。僕の家族は自慢の家族で、パパもママも小春ちゃんも、それから弟の大賀も、小学生のときから交代して1日も欠かさず散歩に連れて行ってくれた。 僕を一番散歩に連れて行ってくれたのはママで、その次が小春ちゃん。 僕は毎日家族と空を見て、春は桜が咲くのを、夏は草木が揺れるのを、秋は落ち葉を踏んで、冬は白い息を吐いて歩いた。そこには1日として同じ日なんてなかった。僕はいつでもご機嫌で、雨の日だってしっぽを揺らして歩いたものさ。 僕は犬だからしゃべることはできないけれど、みんなに秘密にしていることがある。 ――それは、僕はこの家に、〝小春ちゃんに会いに来た〟ってこと。 僕と小春ちゃんが出会ったのは、小春ちゃんが小学5年生のとき、ペットショップでなんかじゃないんだ。小春ちゃんは知らない。僕がどんなに小春ちゃんに感謝しているか。 僕は犬としてこの世に生を受けたけど、その前はすずめの雛だった。 小柄なうえにドジなすずめで、母さんがエサを咥えて帰ってくるまえに、兄弟に押されて巣から地面に落ちてしまった。自分ではどうすることもできなくて、「あぁ、このまま飢え死にするんだ」と泣きそうになっていたら、学校帰りの小春ちゃんが「大丈夫?」って僕を手にのせておうちに連れて帰ってくれた。僕はあのときの小春ちゃんの手の片の温もりを忘れない。小春ちゃんは傷めた翼を治してくれて、おまけに自分で飛べるようになるまで毎日エサも作ってくれた。おかげで僕は元気になった。 それで神様にお願いして、すずめとしての命を終えたあと、どんなときも小春ちゃんの傍にいられるように、犬にしてもらったんだ。 大丈夫。 神様はいるよ。 地球が止まらず回るように、僕らも止まらず輪廻する。 だからそんなに泣かないで。 きっと10年もすればまた君の傍にいる。 あぁ、楽しみだなぁ。 ――次は何になって会いに行こう?       
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