「幸せ」を売る男

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スーツを着て腰に空気入りの小袋を3つぶら下げている怪しい男を見たのならそれは私だ。 そしてここ病院前広場の近くの結婚式場は最高の仕入れ先だ。 「あの〜ちょっとすみません。 おふたりご結婚されたという事で〜あの〜ぜひですね、その…幸せをちょっとおすそ分けして頂きたいんですが宜しいですかね? えっいいんですか?ありがとうございます〜 じゃあ見つめあって…お互いに永遠の愛を感じて〜まぶしくて〜仕方のない未来にはにかんじゃう〜待ってろ〜ハッピーライフ!!」 素早く小袋で空気をすくった。 「はい、頂きました〜」 1人の男が近づいてきた。 「あっもしかしてDMくれた人ですか? 40歳で親のスネをかじりながらギャンブルで借金して途方に暮れているので幸せを買いたいという?」 「そうです…」 「分かりました。ちょっと刺激が強いかもしれませんが、こちら先ほど採れたての超新鮮。2年の遠距離恋愛乗り越えた純愛令和婚の幸せどうです?」 「それより…こっちがよくて」 「これはまだ早いです!この宝くじ3億の幸せはお客様の現状を考えますととてもお売りできません。急激に心臓に負担がかかるゆえ急な幸福度にお客様が耐えられるとは思いません。」 「そうなんですか。。。」 「なんならまずこの試供品の四つ葉のクローバーみぃつけたくらいから始めてみます?」 「やっぱ結婚の幸せを知れば働く意欲もわくかもしれないんでさっきの結婚式のでいいっす」 「かしこまりました。」 袋に素早く自分の息をシュッと入れた。 「えっ?」 「お客様まだ恋愛経験がないという事でちょっと40歳独身男性のエッセンス入れてブレンドさせていただきました。 お会計がブレンド料含めて16800円になります。」 「24回払いでお願いします。」 「有難うございました。幸せが訪れますように〜」 「タケルくん!」 懐かしくも愛しい声が聴こえた。 「ミキエちゃん!!」 2人は人目も気にせず抱きしめ合う。 「わたし昨日ようやく目覚めたの。長かった。でも奇跡だって。思い出はほとんど忘れてしまったけれど、あなたは忘れてないわ。10年間も待たせてごめんね。」 「そうだ!この幸せを吸ってみて」 「なにこれ?」 「君が事故にあう2時間前の幸せ」 彼女はスッと空気を吸い込んだ。 「プロポーズしてくれたんだ。」 「うん、10年かかってしまったけれどどうしても君にこれを吸ってほしくて。」 「うん。もちろんOKだよ。」 私は思いきり空気をすくった。
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