花火

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花火

 十年前の夏。あなたは生まれたばかりの娘の葵に花火を見せたいと私に断りもなく買ってきて私に叱られたっけ。私が葵を抱っこして、落ち込んだあなたが一人でやる花火を見せた。あれから、あなたは毎年、夏になれば花火を買ってくる。葵が二歳の頃かな?はじめて花火を持たせたのは。あなたは嬉しそうに笑ってたね。四歳のときには花火大会に一緒に行ったけど、あなたはやはり手持ち花火を買ってくる。  毎年、花火大会に行くようになったのに、あなたは手持ち花火にこだわった。あなたと葵が喧嘩した六歳の夏は二人とも仏頂面を見せあって花火をしていたね。そんなあなた達を見て私は苦笑いしてたね。  七歳の夏ははじめてのロケット花火で葵を泣かせたね。私もあなたを叱ってしまった。あなたはいつまでも子供のようだ。  八歳の夏は手持ち花火をするためだけに葵に浴衣を着せて、写真を撮りすぎて嫌がられてたね。九歳のときは、葵が面倒臭がって、あなたは寂しそうにしてた。結局あなたに付き合った葵のほうが大人かもね。  はじめての葵の花火から、もう十年。ねぇ、あなたはどうして家での花火にこだわるの?花火大会ほど特別じゃないでしょう?  葵と一緒に手持ち花火をするあなたに向けた質問。あなたは至極真面目な顔つきで答えた。 「当たり前みたいだけど、僕には当たり前じゃないんだ。君と会って夫婦になって、葵が生まれて、家族が増えて。僕には夢のような時間なんだ。ずっと特別なんだ。葵との手持ち花火は特別なんだ。葵が生まれた夏に君に叱られたときから、家でやる花火は大事な大事な特別な特別なんだ。家族で楽しめる小さな夏なんだよ」  葵はあなたの顔を見て、まじまじと見つめる。 「お父さん、カッコつけてる!」  いいんじゃない?私の言葉に葵は笑った。 「花火の時間くらいは仕方ないね」  あなたの特別な特別は十年後も普通であればいいね。仕方ないと笑った葵もちゃんと分かってるだろうね。生まれたときからずっとだからね。
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