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私、壱田双葉と、三谷志朗と初めて言葉を交わしたのは、薄墨色の空が急に大粒の涙を溢した日。
バタバタバタとトタン屋根を叩く音と、ランドセルを背負った子どもたちの悲鳴とも歓声とも言えぬ声。見知らぬ家の軒先から、その二重奏に耳を傾けていた双葉に、志朗は無言で傘を差し出した。
高校一年生の、夏と呼ぶにはまだ早い季節のこと。
クラスメイトとは言え、一度も口を聞いたことのない自分に、なぜ彼が傘を差し出しているのか。
躊躇う素振りを見せれば、志朗は黙って双葉の足元に傘を置く。
「雨、降ってるから」
ボソリとつぶやいて、踵を返す。
「え!?」
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