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寂しさ故に……
一人の老人が老衰で天に召されようとしていた。老人の年齢は80歳、大往生と呼べる歳である。せめて最期くらいは自宅で迎えたいと病院の静止を振り切って無理矢理帰宅したのであった。
老人に身寄りはあるのだが、皆住まいは遠方、ここ十年以上は盆も正月にも訪ねてこない。老人は皆不人情なものだと溜息を吐きながらベッドに横たわる。
そのベッドの横には鳥かごが一つあった。鳥かごの中には灰色の鸚哥が毛繕いをしながら老人の姿を眺めていた。老人はその姿を愛おしく思っていると、十年前のことが走馬灯のように流れてきた。
老人は五十年連れ添った妻にも先立たたれ孤独であった。それが70歳を迎えた十年前、家に身寄りも訪ねて来なく、寂しく思った老人は鳥を飼うことにした。小鳥なら餌も粟や稗で安いし、鳥かごの初期投資も余程高いものを買わなければ問題はない。
さて、なんの鳥にしようか。老人はペットショップの小鳥コーナーを回る、すると、灰色の鸚哥と目が合った。首をくいと傾げて円な瞳を向ける。老人の心は陥落た。家に迎えることを決意する。しかし、心配は寿命だ…… 儂が先に死んで一人残す訳にはいかない。老人は店員に鸚哥の寿命を聞いてみた「大体五年から、長くて十年ですね」と説明を受けた老人は「こいつよりは長生き出来るだろう。儂が最後まで世話をする」とし、その鸚哥を家に迎えることにした。
その鸚哥、賢いのかよく喋る。老人が教える言葉をスポンジが水を吸収するように覚えていく。餌が欲しければちゃんと「餌!」水飲み器の水が切れれば「水!」のおねだりをする。妻に先立たれ身寄りも訪ねてこない現状にあった老人にとって鸚哥の世話をすることこそが生きがいとなっていた。常に鸚哥と過ごした十年、老人は充実感を覚えていた。
老人はベッドの上でお迎えを待ちながら鸚哥に語りかけた。
「まさか、儂の方が先に逝くとはなぁ…… 鸚哥って長生きだなぁ…… お前が来てからの十年楽しかったよ……」
眠ったままの老人に向かって鸚哥が叫ぶ。
「オジイチャン! ボク、鸚哥ジャナクテ、ヨウムダヨ!」
ペットショップが灰色のヨウムを灰色の鸚哥と間違えてしまったことを老人は十年後の今際の際になって初めて知った。ヨウムの寿命は五十年以上、老人の元に来た時点で「最期を看取る」ことが決まっていたのである。老人は今までの十年の充実した日々を感謝しながら天に召されるのであった……
おわり
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