2人が本棚に入れています
本棚に追加
---------------------
私はあなたを殺すことに決めました。
急にこんなことを言われて、さぞかし驚かれていることでしょう。
どうして自分が殺されなくてはいけないのかと、疑問に思われているかもしれません。
勘違いしないでください。私はあなたが憎いのではないのです。
むしろその逆です。私はあなたが大好きでした。
楽しそうに友達と遊んだり、両親と川の字で眠ったり、美味しいお菓子を嬉しそうに食べたり、そんなあなたを見るのが私の幸せでした。
でも今のあなたに、あの頃の笑顔はありません。
私には分かるのです。
これ以上生きても、あなたは幸せにはなれない。
仲の良かった友達が虐めてきたときの悲しさを覚えていますか?
お父さんとお母さんが毎晩喧嘩をするようになって、あなたにまで暴力を振るったときの恐ろしさを覚えていますか?
そんな状況で食べるお菓子は全く美味しくない。違いますか?
私はこれ以上あなたが苦しむところは見たくないのです。
幸せそうなあなたから笑顔が消えていくのは、とても寂しいのです。
だから、私はあなたを殺します。
どうか、許してください。
天国で、あなたの笑顔が花開きますように。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
僕はもう一度、錆びた缶の中に手紙を戻した。
机の中から便箋を取り出す。
息を整えて、言葉を連ねた。
『
僕はあなたに殺されませんでした。
僕を殺さないでくれて、ありがとう。
生きていてくれて、ありがとう。
10年後の僕は、幸せに笑っています
』
僕は便箋を丁寧に折りたたみ、缶の中にそっと入れた。
先程掘り起こした場所は土の色が変わっている。
もう一度、同じ場所を掘っていった。
穴の中に缶を置き、上から土をかける。
一連の作業の後、なぜか僕は手を合わせていた。
目を瞑り、どこか遠い世界に向かって祈りを捧げる。
「これからの10年も、幸せに笑っていられますように」
最初のコメントを投稿しよう!