裏口拉麺

1/3
前へ
/3ページ
次へ
 その男は、何の前触れもなくやってきた。  全身黒ずくめで、どう見ても不審者という出で立ち。  私が経営するラーメン屋に他の客に紛れて来店すると、一番安い普通のラーメンを注文してさっさと平らげてしまった。  その日は忙しくないランチタイムだったが、その男はいつの間にかいなくなっていた。  まだお代を貰っていない。完全に食い逃げだ。  追っかけて捕まえたかった。しかし他に客がいる。安いラーメン一杯だったから、と自分を納得させて諦めることにした。  すっきりしない気持ちのまま片付けをしていると、その男が座っていた席に紙切れのようなものが二枚落ちていた。  見たこともない模様が描かれたチケットもどき。それと『10年後までとっておいてくれ。必ずお代を払いに戻ってくる』と書かれたメモ。  これは男の持ち物なのだろう。担保ということか?  だが、10年後に支払うなんて嘘くさい。だいたい10年先までこの店があるか怪しい。ふざけているのか。  怒りに任せて捨てようと思った。が、別に嵩張るものでもないし捨てたところでお代が返ってくる訳でもないので一応とっておくことにした。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加