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国曰く、「少子化の原因は若者の忍耐不足」らしい。
そのため、12歳以上のカップルは10年契約をしなくてはならない、という法律が制定された。一度交際を始めたら、最低10年間は別れないよう、カップルの両方の首にチップを埋め込み、別れたら罰を与える。そんな規則だった。初めは猛反発を食らったものの、意外と罰されるカップルは少なく、今や「10年後の君へ♡」というカードや記念品を入れたタイムカプセルを同時発売するサービスまで出てくるほどに、人気の法律となっていた。
だが今の俺には——己を縛る鎖でしかない。
「ねえ、まーくん。あたしたち、あと五年は一緒に居られるんだよね?」
ソファで隣にぴったりくっついて座るユウナに、俺は答えた。
「なーに言ってるんだよ。俺たちの絆は、永遠だろ?」
「あはっ。ユウナ、嬉しい」
彼女にくっつかれた部分が鳥肌になる。
ユウナは決して悪女ではない。
裏切られたり幻滅したりしたわけでもない。
ただ俺は、他に、運命の女性を見つけてしまったのだ。
だからもう——彼女といるのは苦痛でしかない。
「ねえ、そういえばさあ」
ユウナが横で喋るのを、上の空で聞きながら、運命の恋人のことを考えた。お互いに、今は10年契約の恋人がいる身だった。だから10年の期間が終わった後に、二人一緒になろう。そう約束していた。愛のためなら、数年くらい我慢できるというものだ。
「別れた時の罰って、一体何なんだろ」
「さあな。俺たちには関係ないだろ」
運命の人に出会ってから、わかった気がする。この法律は、あえて自由を縛ることで、本当の愛に気づかさせるものなのだ、と。
「私たち、別れよっか」
そこで、唐突にユウナが言う。俺は笑った。
「またまたー」
「本気だよ」
ニッコリとユウナが微笑む。
「知ってるよ。まーくん、10年が終わったらあたしと別れる気でしょ?」
「な、なんでそれを……」
「噂だと、恋人同士が別れたら、国はチップから高圧電流を流して、二人とも殺しちゃうらしいよ」
「そ、そんなの噂だろ? ていうか、別れないでくれよ、ユウナ……」
「ううん。もう遅いよ」
見れば、ユウナの手には開いたタイムカプセルがあった。中から、煙が出てくる。
「こ、れは……」
「10年も、保たなかったね。でもよかった。毒ガスの効き目がなくなる前で」
彼女の策略に気付いた時には、俺はもう、半ば意識を失っていた。そして悟った。
この制度は、人を愛に狂わせる起爆剤だったのだ、と。
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