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カラフルな色や模様で埋め尽くされるスクランブル交差点を無機質な透明な傘ですり抜ける雨の日の昼下がり。雨はしとしとと、どちらかといえば好きな降り方で子供ならば傘を閉じてしまう程の雨模様は、今朝方みた天気予報通り、午後からは雨は降らないようだ。
久しぶりの休日だったというのに上司からすぐきてくれと切羽詰まった声で会社用の携帯の留守電が入っていて、午前中を棒に振った。留守電にいれる上司もいかがなものかと思うが、それを聞いて出社する私も会社に飼い慣らされてしまっているのかもしれない。
なんとか事なきを得て、上司からいやー助かったよ。やっぱり蒼さんは頼りになるよと肩を数回叩いてからおっと、セクハラかなとおどけてくる恒例の行動に半分諦めつつもやはりどこかで苛立ちを覚えながら、爽やかに笑って大丈夫ですよ。でも今の若い子にはやらないのが賢明ですよとクギをさしたけど理解してくれてるのか分からないまま、そうだなとあしらわれて会話をおえた。上司には悪いが先に帰らせてもらうことにして、パソコンの電源を落とした。
休日だからとラフな格好で出てきてしまったが、上司はもちろんスーツで、お咎めはなかったけれど眉間にシワが寄っていたのを思い出し笑いしながら携帯と定期のみが入った小さなバックを手にして事務所を後にした。休日に人を呼び出しておいて服装について異議を唱えることはしなかった上司はまぁ、割とまだマシな分類に入るのだろう。これが部長だったら社会人としてなんたらだの、品格を疑うねなどとネチネチ言われたに違いない。まぁ、部長からの呼び出しに素直に従っていたかと言われれば素直に頷くことが出来ないけど。
雨特有のジメジメとした、淀んだ空気が身体にまとわりついて、肩に張りつきそうな中途半端な長さの髪を振り乱した。白のUネックのTシャツにネイビー色のロングカーディガン。下はデニムという近所のスーパーに行くような出で立ちで足元は水たまりで濡れることを想定した上でローヒールの黒のサンダルをあわせた格好はどう見ても休日出勤帰りには見えないだろう。
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