雨の悪戯〜Rain DAY〜

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「まったく、北原くんはなんで雨だというのに傘を持って出かけないんだね?」 「えーだって僕、晴れ男だからさここから家まですぐだし大丈夫かと思ったんだもん」 まるで子供が駄々をこねるように、口をとがらせて言う彼は青年だけれども、どこか少年のままのようで、その悪気のない理由に増田さんは心の底からため息をついてるようにもみえた。 とにかくちゃんと拭きなさいとタオルを手渡してカウンターの中へと戻ってきた。 「マリちゃん。すまなかったね、すぐに用意するからね」 「増田さん、そんなに心配しないで私もこんな土砂降りの中帰れないもの。ゆっくりで、彼にもなにか温かい飲み物を」 そう言って、私は先ほど買ったばかりの本を取り出した。新しい匂いの紙は幸せな気持ちになれる。推しの最新作はあとのお楽しみにして、新人作家の「皆無」の1ページ目に目を落とした。 -皆無 全く存在しないこと。全然ないこと。また、そのさま。(デジタル大辞典.小学館) 多くの人や生き物が混在している世界で、自分に合う人間と出会うことなど皆無だと思わないかい?様々な思考や行動を行う人間が多くいる中で自分の意見と同意して一緒に声をあげられる人間もそう多くはないだろう。誰もが迷いながら生きているのだ。ーー そこまで読んで顔をあげると静かに置かれていたコーヒーの匂いが鼻腔をひくつかせた。マスターの入れたコーヒーを一口、口に含んでまたわたしは目を本に落とした。外の雨の音はまるでどんちゃん騒ぎをしてるように窓を叩きつけているようだが、この本の世界に引き込まれた私は、本来の世界の出来事にはまったく興味を引きつけることなく、ただひたすらこの世界に魅せられていた。
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