1人が本棚に入れています
本棚に追加
玄関の扉を開けると、そこには母が待ち構えていた。彼女は満面の笑みで、
「今日はカレーの日よ、ちぃちゃん」
と教えてくれる。
キッチンから漂ってくる匂いを嗅ぎながら、わたしはぼんやりと頷いた。ちぃちゃん。慣れ親しんだ呼び名のはずなのに、違和感を覚えて仕方ない。本物の「ちぃちゃん」に会ったからだろうか。
「……」
ふと、一度だけ会った母方の祖母のことを思い出す。
刃物みたいに鋭い目をした人だった。
彼女の前にいる母は、異常なくらいに背中を丸めて過ごしていた。
——だから羨ましかったの? ママ。
心のなかで問いかける。カレーが好きだったわけじゃなく、カレーの日を作ってくれる母親の存在が羨ましかったんでしょう。自分にないものだったから。
「ちぃちゃん、カレー好きだものねぇ」
「……うん」
嘘だ。わたし、カレーなんて、好きじゃない。
最初のコメントを投稿しよう!