砂漠の二人

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 空は青く、日差しは強かった。気温は高いが風は乾いていて砂漠だというのに日陰にいればほとんど暑さを感じずに済んだ。  人生を終えるには悪くない日だった。 「隊長、この付近の無人を確認しました」  報告に現れたのは三崎という女性隊員だった。 「君も貧乏くじを引かされたもんだな」  そう言うと、三崎は一瞬きょとんとした表情を浮かべ意外にもへへへと笑ってみせた。 「それを言うなら隊長の方っすよ。自分が巻き添えにしちゃって……ごめんなさい」  ぺこっと頭を下げた三崎はどこか嬉しそうで、とても自決を控えているようには見えなかった。  世界を脅かす謎のウイルス源の撲滅に特殊部隊が結成されこの砂漠に派遣されたのは、三ヶ月前のことだ。そしてそれを見つけたのがつい二時間前だ。廃墟と化したオアシスを探索していた時、瓶詰めにされたそれを見つけたのが三崎でその後ろにいたのが俺だった。  ウイルスは感染力が高く発症も早い。瓶の蓋は隙間が開いていて完全に密封されているとは言えず、俺と三崎は感染の可能性があるということになった。そして最後の任務を受けた。片方をウイルスもろとも爆破し、もう片方が消滅を確認した後、自決する。 「隊長……自分、そろそろいきます。なんかだんだん頭痛くなってきたんで」 「怖くないのか」  バカか、と思った。でも相変わらず困ったような笑顔を浮かべる三崎が不思議だったのだ。三崎は瓶を腹に抱えたまま微笑んだ。 「怖くないですよ。これがなくなれば、いずれ平和な未来が来ますから。私がいなくなっても次の世代がその未来を生きてくれる」 「驚いたな。君はもっと」 「何も考えてないやつだと思ってたんでしょう。ひどいなあ」  今までで一番くだけた調子で話す部下に、死の直前だというのに思わず笑いがこみ上げてた。 「それに私、実は隊長のことこっそり好きだったんすよ。隊長は奥さんがいますけど……だから最後に二人きりになれてすごく嬉しいんですよね」  あっと思った時には、もう三崎は歩き出していた。ゆっくりと砂を踏みしめ殺風景な砂漠の真ん中へ歩いて行く。そしてこちらへ向かって大きく手を振った。  直後に爆発音と砂埃が起き、三崎の姿は見えなくなった。  任務成功の狼煙を打ち上げ、俺は妻との最後の会話を思い出していた。子供ができたと言っていた。例えば十年後、俺の息子か娘が平和な未来に生きられるというなら。 「俺は怖いけどな」  そう呟いて、俺は静かに引き金を引いた。
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