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リビングでスマホを触っていると、メッセージアプリに『一緒に海外旅行に行く人~!』と通知が入った。
大学の時からの仲の良い友人内で使用しているグループからで、久しぶりの旅行への誘いに嬉しくなった私は、すぐに手持ちの『イイネ』のスタンプを3つ送り『いつ行く? 今度ご飯食べながら一緒に行き先とか考えようよ!』とメッセージを返した。
どこに行こうか、何をしようか、いつなら仕事の休みがとれそうか。旅行会社のWebサイトを見ながら、旅行の計画を想像するだけで楽しい気持ちになってくる。
「あっ。そうだ」
大事なことを忘れていた。旦那が手元のゲーム機から顔を上げ、「何か言ったか?」と聞くが気にせずクローゼットを開ける。奥の方にある大事な物をしまっている箱を取り出し、中からパスポートを見つけた。海外旅行なら、コレが必須だ。表紙をめくると、今日がちょうどパスポートの有効期限が切れる日だった。
旦那は私の隣にまで来てパスポートをじっと見つめると「この写真、いつ撮ったやつ?」と聞いた。
「十年前だから、二十一歳。これ、就活用にプロの人に撮ってもらったやつをパスポートにも使い回してるのよ」
「だからスーツ着て髪も決まっているんだ。いいじゃん。」
大人になってから撮った写真とはいえ、十年前の顔は今とは全然違う。どことなく顔つきが幼く、輪郭は今よりほっそりしている気がする。そう思うとちょっとショックだ。
「就活の写真使っているって事は、卒業旅行用にパスポートとったの?」
「そうそう。このときは台湾に行ったんだよねぇ。楽しかったなぁ」
その時の旅行メンバーは、今メッセージを送っているメンバーと一緒だ。もしかしたら、これが皆と一緒に行く最後の旅行になるのかななんて、センチメンタルな気持ちにもなったっけ。
「で、次は友達とはどこにいくの?」
「分からない。もしかしたら、旅行自体なくなっちゃうかも。皆、仕事とか子育てとかで忙しいし」
あれきり通知の来ないスマホから、なんとなく事情を察することはできた。
「とりあえず、パスポートは更新しておこうよ」
「旅行の予定立ってからじゃないと、勿体ないよ」
「……友達との旅行もいいけどさ、俺とも旅行行こうよ」
びっくりして旦那の顔を見ると、照れくさいのか私から視線をそらして少し俯いた。
「次のパスポートは、たくさん出入国のスタンプ残そうね」
「もちろん」
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