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西島(にしじま)(さとし)、五十歳。 彼は暴走してきた車に押し潰されて圧死した。 人生なんて呆気ないもの。 痛みも感じる間もない即死で、幽体のまま呆然と現場を見下ろしていた。 そんな聡の両脇には、なぜか美女が二人いる。 一人はセクシー系美女、もう一人は細身の清楚系で、聡の腕を掴んで笑っていた。 「あの?どちら様?俺、死んだよね?」 聡が問うと、右のセクシー美女と左の清楚系美女が順番に言った。 「ええ。初めまして、そしてさようなら。私は未来を司る女神」 「はい。初めまして、そしてさようなら。私は過去を司る女神」 「……はぁ。で、何か?」 営業的な物言いに、聡は怖くなって身震いをしたが、その後の女神達の提案には興味が湧いた。 「あなたに選ばせてあげる。あと十年寿命を延ばすか」 「それとも、十年前からやり直すか」 「ん?……十年長く生きるか、十年過去に戻るか?ということ?」 聡が問うと、未来を司る女神はふふっと笑って言った。 「そう。ここで死ぬ筈だった運命を変えてあげるって提案」 「へぇ、そりゃあいいね。でも、寿命を延ばしても十年経ったら死ぬんだろ?」 「ええ。でも、十年あったら結構楽しめるわよ?予め死期がわかってるんだから、やりたいこと全部出来るし?」 確かにその通りである。 やっておきたいことや、済ませておきたいことは、まだ沢山あった。 聡は未来を司る女神の提案に乗ることにした。 過去に戻る選択を考慮しなかったのは、魅力的な提案とは思えなかったからだ。 どうせ人は死ぬ。 十年をプラスアルファでもらっておいて、きちんと計画を立てて思い残すことなく過ごそう、と考えたのである。 「十年寿命を延ばしてくれ!」 「うふ。どうもご協力有難う」 ご協力って何だろう?ふと疑問が湧いたが、聡はもう、この世界から消えようとしていた。 最後に見たのは、未来を司る女神の微笑みと過去を司る女神の苦々しい顔。 聡は十年の寿命を手に入れた。 「またアタシの勝ち」 未来を司る女神が笑うと、過去を司る女神は呆れた。 「馬鹿な人間ばかりね。十年前に戻って、今日この場所を通らないという選択をすれば、その後もっと長く生きられる可能性もあるのに」 「ふふ。それでこそ人間よ。愚かで可愛い、私達の調査対象……あ、次のサンプルが来たみたい」 「今度は負けないわ!」 過去を司る女神が意気込むと、二人は光と共に消えた。 ……その直後。 隣の町で派手に火の手が上がった。
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