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缶詰の賞味期限は平均三年、十年以上無視しても問題ないらしい。
状況にもよるが、味を気にしなければ十年は余裕で食べれるそれはまさにタイムカプセルだ。
けどそれは、保管状態がよかったらの話。湿気や温度、日当たりに問題ない前提だ。
さて、どうしてそんな前置きをしたかと言うと――
「……どうしよう」
パンパンに膨張した缶詰が、今目の前にあるから。
事の始まりは大掃除。
台所を掃除していたところ、問題の缶は収納棚の奥から出てきた。明らかに中は膨張してパンパン、こころなし変な臭いもする。
「母さんが臭いに気づけばここまで膨れ上がらなかったのでは?」
もちろん責任転嫁。
オーソドックスな食品が入ったものよりは大きめで、トマト缶よりは小さめ。タグにはお得用焼き鳥缶と書いてあって。
「あ、これ俺が買ったやつだ」
犯人十年前の俺じゃん。
どうしたものかと缶詰の前に正座をして、深呼吸。そうだ、冷静になろう。これは十年前の素材で作られたものだ、それはそれでなかなか神秘的ではないか?
「いや、それでも賞味期限切れてるから」
けど事実、いくら賞味期限から十年経っても食べれるからと言って味が保証されているわけではない。だってそりゃ、美味しくいただける期間十年オーバーだし。
「けどこの缶、本当に食品が入っているのか?」
考えてみればこの缶詰、十年経っていて尚且つ膨張しているにやけに漏れ出ている臭いが薄い。そもそも、焼き鳥が入っていないのかもしれない。
ならば、この小さな世界には何が入っているのだろうか?
「宇宙、とか?」
なに馬鹿な事を言っているんだ、こいつは。
我ながら何を言っているかわからない話に顔をしかめて、視線を缶詰に戻す。
宇宙なら、開けたらビックバンが起きるかもしれない。
草原なら、風の匂いがするかもしれない。
タイムカプセルならそれは一体、どんな物が入っているのだろうか?
妄想は膨れ上がり、手は自然と缶切りを握っていた。だめだ、考えるな感じろ。
「まぁ、開ければこっちの物だしな!」
そうと決まれば話は早い。
俺は躊躇う事なく缶切りを突き刺し、そのまま穴を開けていく。隙間から見える……待って、なんか青い。
続けて鼻をついたのは、独特な顔をしかめるような香り。いや、香りなんて可愛いものじゃない。
「うっ……!」
その臭いを表現するなら……ううん、やめておこう、正直言葉にするのもはばかられる。
十年前の俺へ。
頼むから食材は責任持って食べてくれよな。
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