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一時間前―
ウェルカムボードは美しい生花で縁取られていた。筆記体で書かれた新郎新婦の名前に思わず溜息が出る。
「感じ悪いわね。智。偉大な姉の結婚式なのよ」
背後から声を掛けられて振り返るとそこにはアップスタイルに漆黒のドレスを着た美女が立っていた。
ネックストラップ式のドレスの背中は花嫁よりも目を引きそうなほど大胆に露出されている。
「その偉大な姉の結婚式にそのドレスは少し派手過ぎじゃないのか?」
「花嫁の親族ですもの。これ位しないと伯が付かないじゃない」
伯を付けてどうする、と言うツッコミはしなかった。
ふと足元から頭の先まで値踏みするように眺める目線に気付く。
「評価は?」
こういう目線は慣れたとばかりに評価を促す。
「アルマーニのオーダーね。合格よ」
「それは良かった。それじゃ偉大なる姉のドレス姿を拝みに行くとしよう」
肘を少しだけ曲げエスコートを促す智に彼女は満足そうにその腕に手を添えた。
返事を待ちドアを開くとそこには親族の彼女と同じ顔の女性がイスに座っていた。
「遅かったじゃない。二人とも」
笑顔で迎える花嫁のウエディングドレスは純白であるがその刺繍は繊細で見るからにゴージャスであった。まぁ双子だからな、と派手好きな姉達に智は諦めが混じった評価をする。
「とっても綺麗よ。サリカ」
「ありがとう。エリカ。あなたもそのドレス、とっても素敵よ」
キスの代わりに軽く頬を寄せる二人はニューヨーク生まれで国際弁護士の資格をとってからは二人でニューヨークを拠点に仕事をしている。
水城家は代々弁護士を輩出している弁護士一族で智も例外なく弁護士をしていた。
一通り、親戚達への挨拶も済まし智は腕時計の時刻を確認してエリカに耳打ちする。
「煙草を吸って来るよ」
「もうすぐ式が始まるんだから遅れないでよ」
「分かってるよ」
後ろは振り返らずに片手を挙げて返事をし智は外の庭に在った喫煙所へ向かった。
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