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無事に結婚式を終え披露宴は立食パーティー形式だった。広い庭にいくつかの白いクロスが掛けられたテーブルが備えられカクテルや食事が用意されている。それぞれのテーブルにも小さな花が飾られていた。屋内と庭を繋ぐテラスにはイスが用意され姉の知り合いである有名な音楽家達が生演奏を披露してくれていた。鮮やかな青空と緑に白いタイルのコントラストは美しくバイオリンやフルートの演奏と談笑する人々。手にはそれぞれシャンパングラスを持つその状況はどこも絵になる優雅な一時であった。
「それではまた後ほど」
挨拶を交すと智はお堅い弁護士軍団から離脱した。
シャンパングラスを持っている方の肩を軽く揉み解す仕草をする。主役の親族と言うこともあり何も考えずにシャンパンで酔える立場ではなく形だけのそのグラスがやけに重く感じられたから。
「智」
背後から掛けられる声に相手が誰かすぐに分かり笑顔で振り返った。
愛想笑いは姉たちに教わった最高の武器だ。
「紹介したい人が居るのよ。彼女が今回の私の式を飾ってくれたフラワーデザイナーの土屋 彩華さんよ」
エリカとサリカが道を開くように左右に一歩譲るとそこには派手な姉たちとは正反対に普通の女性が立っていた。化粧は薄かったが元が良いのだろう目鼻立ちがはっきりとしている分違和感はない。シンプルな黒のワンピースは無難と言える姿だろう。姉たちの本物を見抜く目は知っているが彼女達が認めるような人間としてはいささか意外なタイプではあった。
初めましてと笑顔を見せる彩華に智も名乗りながらふと先ほどの青年を思い出した。そういえば何となく彼女に似ている。女性に似ていると言われるのは男としては複雑だろうが。そんな事を考えながら智は彩華に労いと感謝の言葉を述べた。会話を弾ませる彩華と智の様子を見ながらエリカとサリカは何かを企むように微笑んだが智はその笑みに気付かなかった。
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