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氷だけになったロンググラスを音を立ててテーブルに置く。
「それで俺、名前しか聞けなかったんです。マジで最悪。ようやく見つけた理想の人だったのに~」
頬を紅くして管を巻く春樹に隣で飲んでいた冬爾はちらりと片づけをしているレイを見たがわざと気付かないフリをされた。
春樹は先日結婚式場で出会った水城智のことを話していた。目の前に突然現れた自分の理想そのものに結局名前を聞くことしか出来なかったことを後悔していたのだった。
「せめて何の仕事してるか位聞けたら捜しようもあったのに」
「お姉さんに聞いたら何か知ってるんじゃないのか?」
冬爾の提案に春樹は両手をジタバタさせる。
「あの後すぐ韓国に先生と出張に行ったから聞きたくても聞けないんです」
泣き声交じりの春樹に冬爾は分かった分かった、と頭を撫でてやる。テーブルを拭き終えたレイも同情するように春樹の肩をぽんぽんと叩いた。
「で、相手の名前って何なんだ?」
レイの問いに春樹は智の名前を告げた。
「水城?そういえば最近あの結婚式場で式挙げたのって水城家の双子の片方だったよな?」
あれだけ盛大な結婚式に各界の著名人・有名人が集まったのだ。当然テレビニュースにも放送されていた。
「じゃぁ春樹の言ってる相手はあの弁護士の水城智なのか?」
驚くレイと冬爾にそれ以上に春樹が驚いた。
「弁護士!」
「お前、知らないのか?」
言った後でそれが愚問だったことに冬爾は気付く。春樹がチェックする情報は芸能ゴシップかオリコンチャート位だ。あっけに取られている春樹にレイが溜息を付いた。
「どっちにしても諦めろ。春樹。相手は現代女性の恋人にしたい一般男性ランキングに入る程の有名エリート弁護士だ。望みはない」
基本的に英字新聞と経済新聞しか読まないレイは冬爾が部屋に忘れていった週刊誌を読んでいたようだ。
「そんな…そんな~」
がっくりとうなだれる春樹に冬爾とレイもそれ以上掛ける言葉が浮かばなかった。
春樹の理想の恋はあっけなく破れたのだった。
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