1272人が本棚に入れています
本棚に追加
九条妙子・水城智弁護士事務所
ビルの入り口にはブロンズ色の板にそう彫られた看板が取り付けられていた。
ビルはJRの駅が近く、通りと平行に線路が通っていた。それらの道を見下ろせるガラス張りのオフィスは広く、部屋の仕切にも特殊なガラスが使用されており、リモコンですりガラスに変わるものである。パソコンと小さな観葉植物が飾られた大きなデスクの端には几帳面に書類が積み重ねられていた。その書類の頂上に無造作に置かれた携帯が着信を知らせバイブレーションしていた。万年筆で書類にサインをしながら左手で携帯に手を伸ばす。
「もしもし?」
着信の相手に気付かれないように溜息を付くと座り心地の良い大きなチェアーの広い背もたれに体重を掛けくるりと窓の外へと向いた。
「生憎俺は暇じゃない。今日中に片付けなければならない仕事が山積みだ」
デスクに置いていた煙草に手を伸ばしたのは智だった。
片手で煙草を取りジッポで火を点けると一息つく。
「写真?どうして俺が届けなきゃいけないんだ?」
姉からの理不尽な命令に智は大人しく引き受けるしか出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!