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ごろりと寝返りを打つと春樹は溜息をついた。寝癖だらけの髪を掻き揚げながら携帯に手を伸ばす。時刻はすでに夜の八時を過ぎようとしていた。夕べ仕事明けに冬爾と飲み打ち明けた理想の恋を三時間で粉砕され帰宅してから死んだように眠った結果だった。今日のバイトは休み。慌てる必要はなかったがせっかくの休みを寝て過ごしてしまったことを少し後悔した。
「腹減ったなぁ」
キッチンに行き冷蔵庫を開けるが気の利いたものは入っていなかった。彩華が海外出張に出掛けてから春樹は一度も買い物に行ってなかったのですでに冷蔵庫の中の物は食べつくしていたのだった。
「マックでも行くか」
薄給の若者の強い味方。
着替えようと部屋に戻ろうとすると玄関チャイムの音が部屋に響いた。
「誰だろ?」
とインターホンの液晶に映ったその顔に春樹は言葉を失った。そこには智が映っていたからだ。
鍵の外される音が聞こえゆっくりとドアが開かれた。
二十センチ程開かれたドアの隙間を智が覗き込むとそこにはあの日出会った青年が居り今度は智が言葉を失ったのだった。
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