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スタッフオンリーと英語で書かれたドアを入った通路で壁にもたれかかりレイは水城智と印刷された名刺を眺めていた。
にんまりと笑っている春樹のバカ面に溜息をつくレイ。
「本気であの水城智だったんだな」
横から手元を覗きこんでくる冬爾にレイの眉がぴくりと釣りあがる。
「何でお前が当たり前のように裏に居るんだ?」
レイが居るからと真顔で言う冬爾をレイは暴力で追い出す。
「で、春樹はどうしたいんだ?」
一仕事終えたと言うようにパンパンと手を払いながらレイは訊ねた。
「え?どうするって…」
「告白、するんじゃなかったのか?」
告白と言う言葉に春樹は黙り込む。
あの時は本気でそう考えていた。自分の中での整理を付けるために一方的でかまわない。迷惑がられたっていいと思っていたが冷静になって考えてみると春樹は怖くなった。
深い意味はないと分かっていても自分の話を聞きながら時々ふっと笑ってくれる表情、慣れない高級レストランで足元を見ていなくてつまずきそうになった時に自然に助けてくれた手。口数は少なかったけれど返ってくる言葉にはちゃんと春樹の話を聞いていると言うのが伝わった。
初めて見た時は彼の持つ強いオーラに当てられ春樹は名前を聞くことしか出来なかったけれど向かい合って知る智の優しい顔、物腰の柔らかい部分に不覚にも余計にのめりこんでしまったのだった。
春樹の様子を見てレイはその想いを悟った。
「忠告はしたからな」
「店長…」
情けない表情で見上げてくる春樹をレイは心から愛しいと感じていた。それは恋愛感情とは違うが春樹がぼろぼろに傷付けられた時はそっと抱いてやることは出来ると思える位大事な存在であった。そんなレイの大きな愛を春樹自身は全く気付いていないのだろうけれど。
「失恋したら慰めてやる。仕事に支障が出たらこっちが困るからな」
くしゃりと頭を撫でてくれる大きな手に春樹は少し勇気をもらった気がした。
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