問う 問う

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問う 問う

それはいつからか10年ごと、どこかで行われていた所業。 「キミに問題です!」 夜遅くまで励んだ塾の帰り、駅を出てすぐのところだった。 テレビの取材とか、そういうものではないだろう。いきなりそう声をかけてきたのは、見ず知らずの若い男だった。 「10年後の今日、キミがひとつだけ叶えてほしい願いは?」 質問には答えず無視して、横に避けて逃げようとする。 だが、相手も通せんぼするように俺と同じく身体を一歩横へとずらしてきた。 こんな時間に、こんな絡みこんな質問。ヤバい奴でないワケがない。 同じ駅で降りる程度の仲では、大人も誰も助けてなどくれないらしい。 俺と男の横を通り過ぎ、どんどん遠くへ去っていく人の姿。 それを目にするうち、俺の中にひとつの願いが込み上げてくる── 「──世界平和」 「えっ?」 「せ か い へ い わ」 口に出ていた。 塾で散々問いには答えてきた、もうこれ以上は勘弁してほしい。しかも意味分からん疲れた面倒くさい。 だから、ただただ平和になりたいと──そう思った結果だった。 「答えたんだから満足だろ」 苛立ちを込めて吐き捨て、ついでに睨みつける。 俺は男を避けるように、斜め先へ向かって走り出した──が、ガシッと腕を掴まれた感触が走る。 「────」 やべえ死ぬかも、と頭に即過ぎる。 鳥肌が立ち、足先から心から──ざぁっと何かが引いていく。 「そんな大きな願いを叶えろって……?」 男の声は、さっきまでのテンションなど微塵も感じられないほど低く落ち着いていた。 激しく選択をミスったと思った。 取り返しがつかない、言葉も出せない。 掴まれた腕から、相手がすぅと息を吸う感覚が伝わって──何をされるのかという恐怖で埋めつくされる。 振り返ることすら、できない。 「その願いを叶えるには、さすがに永劫を司る()の命でも足りないかもねぇ……ほら」 後ろから聞こえてきた男の声には、さっきまでの恐ろしさはなく、むしろ儚い。 そう思った時には、腕の感触はなくなっていた。 「時は金なり、金とは命なり……私の永遠の命を以て、キミの願いを叶えよう……」 思わず振り返る──その先で、男の姿はすぅっと消えていった。 「…………」 俺の願う世界平和とは、誰もが幸せな世界だ。 それには、この神とやらも含まれている……つもりだ。 10年後、この神の幸せそうな姿を拝めたなら、何から問おうか。 信じる信じないよりも先に、そんなことを考えていた。
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