贈り物

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 康太が生まれてきたときのことは、本当に鮮明に覚えているんだ。  ママの手から受け渡されて、どうやって持ったらいいのかも分からないまま、康太がパパの腕の中にいた。  とても温かくて、とても小さくて、とても可愛かった。  そんな愛しい息子の成長をパパは一緒にはみられないらしい。  神様が、パパのことを呼んでるんだ。  パパは康太と一緒に居たいけど、神様には逆らえないんだ。  だって、神様は康太をこの世界に産み落としてくれたんだから、そんな神様のお願いを聞かないわけにはいかないだろう?   神様は意地悪をしているわけじゃないんだ。  虹が出る前には、雨が降らなければいけない。  パパが天国にいくことは、ちょうど雨が降るのと同じようなことなんだ。  必要なことなんだよ。康太なら分かるだろう?  パパはいつだって天国から康太のことを見ている。  でもね、それだけじゃなんだか寂しい気もする。  だから、パパは康太が寂しくならないように沢山贈り物を用意したんだよ。  お庭を見てごらん。  花壇の脇に木が立っているだろう?  あの木は桜だよ。康太が生まれた年に植えたんだ。  毎年毎年、大きくなるぞ。康太が小学生になったときも、中学生になるときも、高校生になるときも、いつもその桜がお祝いの花を咲かせてくれる。  これは、パパからの入学祝いだよ。  食器棚を見てごらん。  一番下の段の、一番奥だよ。  そこにワインのボトルが寝かせてあるはずだ。  そのワインは康太が生まれた年に作られたものなんだ。  息子とお酒を飲むっていう夢は叶わないけど、康太が20歳になったとき、そのワインを開けてほしい。  きっと康太はパパに似てお酒が弱いはずだ。顔を真っ赤にしながら微笑んでるようすが目に浮かぶよ。  それが、大人の味だ。たくましくな。  これは、パパからの成人祝いだよ。  康太。すごく良い名前だ。  康太も知っているかもしれないけど、康太の名前はパパの「康一」からとっているんだ。  パパは「康」っていう字がとても好きなんだ。  健康で楽しく。そういう意味が込められてる。  名前はその人の魂だ。康太とパパの魂は「康」という字で繋がっている。  これは、パパからのお守りだよ。  せめて、あと十年康太を見ていたい。  そう神様に願って、今日康太の十歳の誕生日を迎えることができた。  疲れて眠ってしまった康太は世界一可愛い。  せめて、あと十年康太を見ていたい。  この我儘は許してはもらえなかったな。  康太。  パパの宝物。  どうか、幸せになってください。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加