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康太が生まれてきたときのことは、本当に鮮明に覚えているんだ。
ママの手から受け渡されて、どうやって持ったらいいのかも分からないまま、康太がパパの腕の中にいた。
とても温かくて、とても小さくて、とても可愛かった。
そんな愛しい息子の成長をパパは一緒にはみられないらしい。
神様が、パパのことを呼んでるんだ。
パパは康太と一緒に居たいけど、神様には逆らえないんだ。
だって、神様は康太をこの世界に産み落としてくれたんだから、そんな神様のお願いを聞かないわけにはいかないだろう?
神様は意地悪をしているわけじゃないんだ。
虹が出る前には、雨が降らなければいけない。
パパが天国にいくことは、ちょうど雨が降るのと同じようなことなんだ。
必要なことなんだよ。康太なら分かるだろう?
パパはいつだって天国から康太のことを見ている。
でもね、それだけじゃなんだか寂しい気もする。
だから、パパは康太が寂しくならないように沢山贈り物を用意したんだよ。
お庭を見てごらん。
花壇の脇に木が立っているだろう?
あの木は桜だよ。康太が生まれた年に植えたんだ。
毎年毎年、大きくなるぞ。康太が小学生になったときも、中学生になるときも、高校生になるときも、いつもその桜がお祝いの花を咲かせてくれる。
これは、パパからの入学祝いだよ。
食器棚を見てごらん。
一番下の段の、一番奥だよ。
そこにワインのボトルが寝かせてあるはずだ。
そのワインは康太が生まれた年に作られたものなんだ。
息子とお酒を飲むっていう夢は叶わないけど、康太が20歳になったとき、そのワインを開けてほしい。
きっと康太はパパに似てお酒が弱いはずだ。顔を真っ赤にしながら微笑んでるようすが目に浮かぶよ。
それが、大人の味だ。たくましくな。
これは、パパからの成人祝いだよ。
康太。すごく良い名前だ。
康太も知っているかもしれないけど、康太の名前はパパの「康一」からとっているんだ。
パパは「康」っていう字がとても好きなんだ。
健康で楽しく。そういう意味が込められてる。
名前はその人の魂だ。康太とパパの魂は「康」という字で繋がっている。
これは、パパからのお守りだよ。
せめて、あと十年康太を見ていたい。
そう神様に願って、今日康太の十歳の誕生日を迎えることができた。
疲れて眠ってしまった康太は世界一可愛い。
せめて、あと十年康太を見ていたい。
この我儘は許してはもらえなかったな。
康太。
パパの宝物。
どうか、幸せになってください。
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