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平成が終わる頃、ある幼稚園で先生が小さな五歳の子供達と向かい合っている。
「じゃあ、皆。大人になったら何になりたいですか? 絵を描いて教えてね」
子供達は揃って、ハ~イと応える。
「じゃあ、まずはタキト君」
指名された男の子が立ち上がって凄い描写のF1を見せる。
「僕は、レーシングカーのレーサーになるのが夢です」
「かっこいいわね。じゃあ、次はアイナちゃん」
女の子が立ち上がった。変身ヒーローみたいに飛んでいるバイクの絵が見事だ。
「私は、バイクレーサーになりたいです」
その十年後。その時の二人は十年前の話を思い出していた。
「まさか、この歳で警官だなんてな」
「それも、自動車パトロール隊だなんてね」
F1とバイクのレーサーになる夢を持っていたタキトとアイナは十五歳という年齢で追跡専門の警察部隊にいた。令和の時代で生活や技術も変わった。しかし、大きな問題を抱えていた。
人口減少に伴い、警察志望者は減少の一途を辿っていた。
だが、犯罪は減らない。
政府と警視庁は緊急特例として、週末限定の『準警察官』に貢献できる学生は高校授業料を免除するという生活支援策を生み出した。タキトとアイナは限定走行の免許を取得し、週末は関東一円を結ぶ新営道のパトロール隊にいる。
車両は本道とは別の作業道に潜めている。タキトは日産・フェアレディZ。アイナはホンダ・ナナハン。正規の警察車両との区別に、警戒灯は青と赤の二種が使われている。
思い出話が終わると、やかましい音が聞こえてきた。週末に現われる十代後半の暴走族達だ。思い思いにカスタムした車やバイクは広い道を遠慮なく通る。
「来たぞ!」
「いい歳の学生が情けないわね」
二人はヘルメットを装着すると、エンジンを始動させた。
暴走集団が目の前を通ると、すかさずアクセルを吹かして発進する。サイレンが鳴り、眩しい回転灯も動く。
相手の数は多いが、誰かのために役に立ちたいと思う二人には苦ではない。
レーサーとは違うが、今の自分を楽しんでいる。
誰だって、十年先どころか、一分先の出来事だってわからない。
二人は進む道路と同じ、色々な分岐があるかもしれない。
分岐を選ぶのは自分だ。
※この物語は現時点はフィクションですが、将来は判りません。
二十年後、あるいは・・・・・。
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