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今一度手紙を読もうかと、便箋の封印に手をかけた時、ドアをノックする音が響いた。
見られるのは何だか気恥ずかしくて、返事をしながら手紙を隠そうとしたのだが、後一歩のところで間に合わなかった。
急に書斎に入って来たのは娘で、私が持つ手紙を目にすると瞳を輝かせて質問してきた。
――それは何? 誰かからお手紙、もらったの?
書斎を訪問した理由は一体何だったのか、そこは告げないままで、私が持つラブレターに興味を示した娘に苦笑する。
突然娘に詳細を話すのも気恥ずかしいため、取り敢えず、ラブレターだとだけ説明すると、娘も実体験を思い出したのか、少し照れくさそうに笑い、お父さんの青春時代って素敵だったのね、なんて感想をくれる。
まさか娘からそんな言葉が出るとは思わなかった。
思っていた以上に大人になっている娘にもう、“子供を護る”という、親としての役目はとっくに果たされていたのだと、改めて実感する。
――……お前にも、あるだろう?
愛する男性と結婚して、近い内に家を出る娘に語るには、絶好の機会だと思いながら、妻とのなれそめを話し始めたのだった――。
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