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妻と結婚してから、もう何年一緒に過ごしてきただろう。
楽しい事や嬉しい事ばかりではなかったが、ただ穏やかに、健やかに暮らしてきた――。
二人の間にも、どうにか娘が授かり。四苦八苦しながらも子育てを重ねて、やがて成長した娘がある日、恥ずかしげに頬を赤らめながら、――逢ってもらいたい男性がいる――、と告げられたのは、一月程前の事だったか。
娘に連れられてきたのは、実に誠実そうな青年で、何故だか初対面なのに私は、「彼にならば、安心して娘を預けられる」と、そう確信したのだ。
一通りの挨拶と、質素だがきちんとした会食を済ませて、連れ添う娘、そして青年と別れて家路に着いた時には、自然と涙が零れ落ちていた。
まだ小さい。親が護らなければ娘もいけない子供だ。ずっと護らなければ。
そう思っていた娘もいつの間にか、自分の力で地に足をつけ。立派な伴侶を選び、私達に紹介しても大丈夫だと判断出来る程の、ちゃんとした大人になっていたのだ。
今夜は結婚前夜。
娘と共にする、最後の食事を終えて、書斎に戻ってきたばかりである。
本好きな娘はよく、この書斎に私と籠って、色々な本を読んでいたっけ――。
慣れない漢字に手こずりながらも、本を読んでいる娘を、微笑ましい表情で見詰めたものだ。
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