結婚写真

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結婚写真

――ガシャン! いきなり大きな音が鳴り、振り返る。 「うわっ、最悪……」 そこには、落ちた写真立てが無残にも割れていた。 「怒られる、怒られる、……よね?」 ステンドグラス製のその写真立ては、新婚旅行先でふたりで気に入り、買ったものだ。 それを割ったとなると……考えるだけでも、怖い。 「とりあえず片付けよう……」 なんで、今日。 きっと、前を通り過ぎたときにバッグかなんかが当たって落ちたんだろうけど。 ほんっっっっと、なんで、今日、割れる? 別に昨日でも、明日でもいいだろうに。 重いため息をつきつつ、ガラス片を集めていく。 そんなに細かく割れているわけじゃないし、くっつかないかな……? なんて間抜けにも考えてみたけれど、元に戻るわけでもない。 「写真は無事、か……」 これは不幸中の幸い、……と言えるのか? とりあえず、これはどこかに避けておこうと、何気なくその、結婚写真の裏を見た。 「……なんでこんなとこに隠してるんだろ」 ヤバい、ニヤニヤが止まらない。 絶対帰ってきたら、怒られるのに。 「ただいまー」 そうこうしているうちに旦那が帰ってきた。 「……十年目の結婚記念日」 眼鏡をあげながら、意外にも薔薇の花束なんて渡してくれた。 「ありがとう。 ……あの、ね?」 「なに?」 ネクタイを緩めながら言い淀む私へ、怪訝そうに訊いてくる。 「あー……。 写真立て、割った。 新婚旅行で買った奴。 ごめんね?」 「あれ、割ったのか!? 気に入ってたんだぞ!」 うっ、やっぱり怒られた。 うちの旦那様はちょっと怖い人だ。 「……ごめんなさい」 「割ったものは仕方ない」 はぁーっとため息をついた彼だけど、なにかに気づいたのかみるみる青くなっていく。 「……見たのか、あれ」 「……見た」 ズレてもいない眼鏡を、彼がくいっとあげる。 「忘れろ」 「いやいや、無理だって」 だってそこには、結婚するに当たっての、彼の決意表明のようなものが書かれていたから。 きっと嫌な思いもさせるだろうけど、絶対に幸せにする、って。 「最初から見せてくれたらよかったのに、あれ」 「……無理、だ」 眼鏡をあげて照れる彼は、凄く可愛い。 だから十年前、不安でいっぱいだったあの日の私に教えてあげたい。 あなたの旦那様はこんなに私を思ってくれていますよ、って。 【終】
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