ラブソングは聴かないで

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 部屋を片づけていたら、CD-Rが出てきた。  透明のケースには、白いラベルが貼られてあり、『俺の好きな曲』とだけ書かれてある。  それを見た途端、高校時代の思い出がよみがえってきた。  高校一年生の時、隣の席の男子と仲良くなった。  お互いに趣味も合うし、話していて楽しくて、よく授業中に夢中で話して先生に怒られたっけ。  彼が高校二年生になる直前で県外への引っ越しが決まった瞬間。  私は彼への恋心にようやく気づいたのだ。  このCD-Rは、彼が引っ越し直前に私にくれたもの。 『聴いてみて』とだけ言われ、そのまま告白をされるわけでもなく、私たちは離れ離れになった。  当時は、『そんなの辛くて聴けない』と泣いて、引き出しの奥にしまいこんでしまった。  だから私はこれを一度も聴かないまま、27歳、つまり10年が経過してしまったのだ。  今なら、聴ける。  そう思って私はCD-Rを再生してみた。  スピーカーから流れてきたのは、高校時代に私が大好きだった曲。  イントロが終わり、歌いだした瞬間。 「お前が歌うんかい!」  思わずニセ関西弁でツッコミを入れてしまったのは。  歌っていたのが、歌手ではなく彼だったからだ。  しかも微妙に上手い。  複雑な気分になりながらも、曲を聞き終えた瞬間。  スピーカーから当時の彼の声が聞こえた。 『俺はお前が好きだ!』  私は驚いて思わず倒れそうになる。  それと同時に、後ろで「うわああああ」という叫び声。  振り返ると夫が頭を抱えていた。 「やめろおおおお! 俺の黒歴史を再生するなあああ」  夫は頭をぶんぶんと振って、しゃがみこんでしまった。  私はひとしきり笑ってからこう言う。 「私たち、10年前から両想いだったんだね」 「気づくの遅っせえよ!」  夫はそう言って顔を真っ赤にした。
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