14時の問いかけ

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 土曜の14時、郵便受けを見ると一通の手紙が届いていた。  10年後の自分に送る、タイムカプセルのような手紙。小学生の頃、授業で書いたものだ。まだ12歳だった私は、22歳になった自分に向けて何を書けばいいか大分悩んだ記憶がある。結局、仲のいい友人にアドバイスをもらい手紙形式ではなく箇条書きで質問を書き上げたはずだ。内容はあまり覚えていない。12歳の子供から見た22歳は、ほとんど大人のような存在だった。小学生が大人に聞きたいことと言えば、なんだろう。  質問を確認するため、色褪せた封筒にハサミを入れて便箋を開くと―― 『10年後の私へ質問です。  問1  10年後も、私は■と仲がいいでしょうか?  問2  今、私は■に恋をしているのでしょうか?  問3  私は、■のことを好きでいていいのでしょうか?  問4  私は、■のことを考えると胸が苦しいです。この先もずっと苦しいままですか?  問5  私は、■のことを諦めた方がいいですか?  10年前の私より』  拙い文字で書いた質問の、相手の名前の部分だけ鉛筆で黒塗りしてある。照れ隠しだろうか。しかし、誰のことを言っているのかすぐに分かった。12歳の私が何よりも気になっていたのは、ただただ近くにいる好きな子のこと。  甘く切なく疼く胸に手をあて深呼吸した後、私は10年前の自分に答えていく。 『問1  10年後も、私は■と仲がいいでしょうか?』 「はい」 『問2  今、私は■に恋をしているのでしょうか?』 「はい」 『問3  私は、■のことを好きでいていいのでしょうか?』 「はい」 『問4  私は、■のことを考えると胸が苦しいです。この先もずっと苦しいままですか?』 「はい……」  答えた後に、目を閉じた。瞼の裏で、12歳の私が不安そうな顔でこちらを見ている。安心させるように「でも」と言葉を続けて、苦しいこともあった10年分の思い出を振り返る。 「きっと小学生の頃には想像もできない、苦しいことも、悲しいことも、悔しいことも、たくさんあった……けど」  不意に、玄関の扉を開ける音が聞こえた。聞き慣れた足音が近づいてきて、自分でも頬が緩むのが分かる。  最後の質問に答える前に、私は手紙を置いて立ち上がり、10年前からずっと大好きな■を迎えに行った。 『問5  私は、■のことを諦めた方がいいですか?』 (いいえ。ずっとずっと好きでいたら、苦しい思い出も報われるような素晴らしい奇跡が起こるから……諦めないで好きでいてね)
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