時効

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 10年ひと昔、とは良く言った物ですが、確かに最近の世の中の進歩はもう、ついていけませんよね。10年どころか、1年で、色んなものが陳腐化してしまう。本当に世の中の変化が加速度的に進んで、とてもついていけません。でも、まあ、世の中が良い方に変わって行くんなら、それもしょうがないですよね。  そう言えば、殺人や強盗殺人といった重罪について公訴時効が廃止されて、今年で10年なんですよね。あれは勿論、被害者遺族の方々にとっては、歓迎すべきことだったんでしょうが、実は、あの時万歳を叫んだ人たちが他にもいるんですよ。誰だと思います?  それは、他ならぬ犯罪者たちなんです。  逆じゃないかって?ええ、普通はそう思いますよね。でも、ちょっと考えてみて欲しいんです。  時効が無くなるということは、警察官は解決するまでその事件を追い続けなければならないわけでしょう?当然そうなりますよね。一方、“事件“の数は、それに応じて減っているのでしょうか?そんなことないですよね。事件の発生率自体は変わってないわけです。そして、警察官のマンパワーって、あれを契機に増えたんでしょうか?そんな話は聞いたことないでしょう?  そうなんです。かえって、警察官の仕事は大変になってしまったんです。当然、事件の内容に応じて”優先順位“がつけられるようになる。殺人みたいな重大案件でなければ、自ずと後回しにされていく。詐欺、窃盗なんか金額が軽微なものなら、みーんな後回し、ほぼお目こぼし状態ですよ。  何故、私がそんなに裏事情に詳しいのかって?それはですねえ……へへ、ええ、お気づきのとおり私もケチな犯罪者のはしくれでして。へへ、勿論大したことも出来ないんですけどね。まあ、こうやってお若い方に社会勉強の為に色んな話をするのが楽しみの一つで……おや、どうしました。眠そうですね。  どうやらジュースに入れたお薬が効いてきましたかね。  10年前強盗に入ってあんたの両親を殺した時、まだガキだったあんたに顔を見られたのは不覚だったな。ったく、あれから時効も廃止になっちまったしよ。こうなったら唯一の証人であるあんたに消えて貰わなきゃどうしようもないんだよなあ。  まあ、悪く思わんでくれよ、ひひひ。
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