泥龍を飼うということ

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 泥龍の飼育は、苦難の連続だった。  最初は、警戒して餌を食べようともしなかった。  人の臭いがつかないよう箸でつまんで餌を水槽に入れた上で、私が向こうから見えない位置に隠れると食べてくれると分かるまでの二日間、このまま餓死するのではないかと気が気でなかった。  一ヶ月後、いつものように箸で餌をつまんで水槽の床に置こうとした時、思いもかけないことが起こった。  まだ私の手が水槽内に入っているというのに、泥龍が寄ってきて、つままれた餌をぱくりと食べたのだ。  餌を与えられても、泥龍は嬉しそうな顔一つしなかった。けれど、その時初めて、私はこの爬虫類を少しだけ可愛いと思った。  そして十年が経った。もう私よりも大きくなった泥龍は、相変わらず無表情だ。でも私は、この子の感情がその仕草から分かるようになった。最初は龍なんてごめんだと思っていたのに、この十年ですっかり愛着が湧いた。  けれど、だからこそ、私は十年後が怖い。  その時の私は、この子との別離に耐えられるだろうか。  今なら、館長が私を選んだ理由がよく分かる。龍が好きそうでない私なら、別れも辛くないだろうと思ったのだろう。  でも、十年も経てば人は変わるのだ。
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