泥龍を飼うということ

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泥龍を飼うということ

 泥龍は幼体期の長い動物で、成長に二十年もの時間を要する。  十年前、私はそんな泥龍の育成を任された。 「弱って動けなくなってたのを見つけた人がいてね。なにせ絶滅危惧種だから、自然に任せて死なせるより、大人になるまで育ててから野生に帰した方が良いんじゃないかという話になったんだよ」  水槽の床にぺたりと腹ばいになった、鼠くらいの大きさのそれを見せながら、私が務める水族館の館長はそう言った。  成体になれば天敵のいない泥龍だが、小さいうちは多くの肉食獣に狙われる。そうした心配の無い大きさになるまで育ててから野生に帰そうという館長の意見はもっともだ。  問題は、なぜそれを任せるのが私なのかという点だった。 「だってほら、これ、成長するのに二十年とかかかるでしょ? だったら、その間に引退しちゃう人よりは、まだ若い君の方が良いかと思って」  可愛いイルカとかならまだしも、表情一つ読み取れない爬虫類を二十年も育てるというのは気が重かった。  そんな私の心の声が聞こえたわけでもないだろうが、館長は更にこう続けた。 「あと君、龍とかあんまり好きじゃなさそうだし」  館長は、私があんまり好きじゃないんだろうなと、その時はそう思った。
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