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もうすぐ地球ですが、その前に重大なお知らせがあります。
「到着まであと六時間かぁ。
小惑星SY-2Sの探査も無事完了、いよいよだね」
「今頃地球はどうなってんだろうな。
この船の速度だと、相対的に地球より遥かに時の流れが遅いから、着いた頃にはちょうど十年経ってるんだよな、あっちは」
「リアル浦島太郎よね。
超楽しみ。
十年も経ったらもう別の世界だもんねぇ……って、あれ、何よ、急に暗い顔して」
「いや……実は……散々この船の中で二人でいい感じになっちゃっておいて、本当に申し訳無いんだけど……」
「……何よ」
「いや……実は……地球に嫁と子供がいるんだ」
「はぁ!?
何言ってんのよ、ふざけないで!」
「いや、マジでマジで。
でもさぁ、あっちは十年先に歳を取ってるわけで、もうなんつーか時空が噛み合わないだろうしさぁ、帰ったらやっぱり別れようと思ってはいるんだよね。
浦島太郎は寂しいじゃん、置いてかれたみたいで。
やっぱり宇宙船乗りが結婚なんかするもんじゃないよな」
「はぁ!?
あんた馬鹿なんじゃないの!?
絶対駄目よ!!
寂しいのはあっちの方でしょう!?
十年もほったらかしにされて、生きて帰るかもわからないってのに!!
別れたりしたら本気でぶん殴るからね!!」
「そ、そうか……そうだな……。
じゃあ……お前と別れるよ、ごめん」
「……それはそれでちょっとムカつく」
「どっちだよ!?」
「じゃあ……こうしましょう。
勝手に健気な奥さんを想像してたけど、普通に考えたら十年も旦那が宇宙に行ってたら絶対に新しい人を見付けてるわよね。
だから、そういうことになってなかったら、本当に奥さんが健気ないい人だったら、あたしは大人しく身を引くわ」
「……なんかどっちにしろ俺は悪役というかマウント取られる気がする」
「当たり前じゃない、不貞を働いたのはあんたなんだから。
あ、あれ地球かなぁ!?
なんだかますます楽しみになってきたわ。
ちなみに奥さんが新しい人を見付けてようがなかろうが、あたしとの関係のことはお伝えしまーす」
「なんでだよ!?
どちらにしろ言わなくていいだろ、そんなことは!!」
「いいじゃない、もしかしたら十年のうちに不倫が許される世界になってるかもよ?
あなたはそれに賭けたら?
あはは」
「帰りたくなくなってきた……」
終
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