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家で漫画を読んでくつろいでいると携帯電話の音が鳴った。携帯を覗くと母親の表記が画面に出ている。電話をかけてくるなんて珍しいと思いながら電話を手に取る。
「もしもし」
「あっ、あんた。ちょっといい」
「なに?」
「あんた宛に手紙が来てるから暇な時にこっち来て取りにくるように」
「俺に? 誰から」
「自分の目で確かめたら」
そこで電話が切れる。雑な電話になんだよと思いながらも、気になってしまい身支度を済ませて実家へと車で向かう。
実家に着くと鍵が掛かっていた。キーを差し込みドアを開ける。静かな家の中に入り、リビングに向かうと机の上に封筒が置かれていた。
封筒の表にはマッキーペンで自分の名前が書いてあった。封筒の後ろの差出人の名前を見ると自分の名前になっている。
そこで気付いた。確か十歳の時に学校で自分宛に書いた手紙だ。懐かしいなと思いつつも、どんな内容の文を書いたのかは分からなかった。
中身を見るのに少し怖さがあるがハサミで封筒を開封する。中に入ってる便箋を開くと、文章はこんな出だしで書かれていた。
「拝けい、二十才の私へ。いかがお過ごしでしょうか」
自分相手に敬語使ってるよ。自然と笑みがこぼれる。十歳の自分が書いた手紙は予想以上に丁寧な言葉が綴られていた。
「私はとても元気です。毎日楽しく過ごしています。先のことはわかりませんが私は将来、人を助ける仕事がしたいです」
自分の顔から笑みが消える。手紙を読んで心が痛くなった。今の自分は人に迷惑かけてばっかりの格好悪い人間だからだ。
手紙を丁寧に折り畳むと封筒に仕舞い、ジーンズの尻ポケットに突っ込む。
ごめん、十才の自分。もうちょっと頑張って君の言う、人を助けられる大人になって見せるから。
手紙の最後にはこう書かれていた。
「二十才の自分、がんばれー」
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