10年後の時手紙

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 10年後の中上美波へーー  そんな書き出しで一通の手紙を書いた。  中上美波(なかじょうみなみ)の最近のはまり事、それはお気に入りの舞台俳優Tへ手紙を書くことだ。初めてTの舞台を友達に連れられて見た時、あまりの感動に終わった後しばらく席を立てなかった。運命のように頭の中でリーンゴーンと鐘が鳴ったのだ。それから彼だけを熱心に追いかけた。もちろん舞台は見にいく。それも同じ公演を何度も(時々友達に呆れられる)。雑誌に載れば発売日に購入し、グッズはコンプリート、TV出演などした時には最高画質で録画する。ファンクラブにも入会し、愛情ダダ洩れの手紙を書いては送るのみならず、楽屋待ちと呼ばれる場面で直接手渡すこともある(本当は褒められたことじゃないのかもしれないが)。  今日は、初めて彼の舞台を見たその日から、Tと出会ってから、ちょうど十年という日だった。もちろん、そのことを感動的な言葉に託した彼への手紙は、すでに書き終えている。  この日は、彼の舞台を見に名古屋へ遠征をしていたところだった。舞台と舞台の合間に少しだけ時間ができた。観光でもしようと調べてみると、こんな言葉に出会った。 「時手紙」  未来の自分への手紙を届けてくれるサービスらしい。今日はちょうどいい。十年という節目の年だ。このサービスを利用することとした。  お好きなことをお書きください。とのことだったので、思うままに筆を進めることとした。 「10年後の中上美波へ  お元気ですか?今でもTを大好きでいますか?  Tはこの10年、本当にかっこいい姿を見せてくれたよね。たくさん感動して、たくさん楽しいことがあって、こんなに幸せをくれたTに心から感謝してるよ。  10年後Tが、たとえ舞台俳優をやめていたとしても、たとえ芸能人をやめていたとしても、たとえ日本から旅立っていたとしても、Tが幸せならそれでいいよ。  10年後のTへ。10年分のありったけの愛を今届けておくよ!  10年後のTへ。どうか笑顔で。  10年後のTへ。どうか幸せで。」  ほれ、見たことか。自分への手紙のはずが、Tのことばかり。  これじゃぁまるで、「10年後のキミへ」だ。
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