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「わかってくれたか!」
「しかし春潮師匠は勘違いなされているようです。うちで出せるやまない雨は、あの天気の雨を降らせる魔法のことではありません」
「なんだって!?そんな……」
春潮がうなだれてしまう。
「しかし今の春潮師匠に必要なのは、むしろうちが出しているやまない雨かもしれません。これです」
店長がポケットからなにかを取り出して、春潮の掌に置いた。それは、透明な袋に入った大きめの錠剤に見えた。
「失礼ながら、春潮師匠は少し精神的にお疲れのようだ。これは、ひと粒舐めればそんな気分をふっとばしてスッキリイケイケな気分にしてくれる魔法のキャンディーです」
「つ、つまりこの店で手に入るのはやまない雨じゃなくて……」
「そう」
「「病まない飴」」
……
く、くだらねえ〜と思いながら山田君は店長に確認したいことがあった。
「店長、あの、それってヤバイやつじゃ……」
「何言ってるんだい山田君。疲れたときに飴で糖分を補給したり、ミントタブレットでスッキリするのはなんにもヤバイことないだろう?」
「はあ……」
「で、これは普通の飴みたいに舐めればいいのかい?」
「そうですね、初回は飴のように舐めていただくのがいいですね。慣れてきたら砕いて粉にして鼻から吸ったり炙って煙を吸ったりしてください」
「ヤバイやつじゃねえか」
春潮が摘んだ飴を少し観察してから舐め始めた。
「しかしこんなものがほんとに効くのかねえ?」
「もちろん。芸能関係の方ですとか、師匠のような芸術、創作方面の方、音楽関係者の方なんかはこれがないと駄目だって方もいらっしゃいますよ」
「やっぱりヤバイやつじゃねえか」
春潮が眼球振盪を起こし始める。
「お、お、おお……」
「春潮さん、もしもし!あの、店長やっぱりこれ」
「いやいやいや」
春潮が急に立ち上がる。
「こ、これはすげえ!舞台が大成功したときのような興奮だ!若いころみてえに次々新作の種も思い浮かんできたぞ!」
「……」
「こうしちゃいられねえ!帰って新作を作る!それを引っさげて落語会にカムバァックしてやる!ありがとう店長さん!」
「いえいえ」
「こいつのお代はいくらだい」
「初めてですし、私も春潮師匠に会えて嬉しかったので特別に無料でいいですよ。それにまたお越し願えると思いますから」
「いやもう完全に最初は安く配ってどっぷりハマったところで高額でむしり取るヤバイやつの手法じゃないっすか」
「ありがてえ!じゃあな!」
春潮が歳に見合わぬ速さでドアから出て行った。
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