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 お元気ですか?  なんて、自分への手紙を書くのは気恥ずかしいですね。  私は今〝十年後の私〟と〝十年前の私〟に宛てた手紙を(したた)めています。  まずは〝十年後の私〟へ。伝えたいのはただ一言。  ――貴女は何になりたいですか?  〝十年前の私〟は、この問い掛けを奇妙に思うでしょう。  貴女はすでに三十歳(私は不惑を迎えました)、五十歳の私に尋ねるには妙だと感じるかもしれません。  でも、その考えは捨て置いて下さい。  〝十年前の私〟には伝えねばならないことが沢山あります。  貴女はジャンクフードを流しの前で立ったまま食する自堕落なたちで、結婚は諦めていましたね(私が貴女だと信じる気になりましたか?)。  ですが、三十半ばに運命の人と出会い、子どもにも恵まれます。  けれど良いことばかりではありません。    二〇二〇年、世界規模の災厄――新型ウイルスによるパンデミックが起きます。経済は回らず、差別は広がり、憎悪が膨らみました。そして不安という風が吹き込まれ、そちこちで燻っていた問題から火の手が上がり、戦争へと発展しました。  世界は医療崩壊や食料不足、土壌汚染などの深刻な状況に陥っています(万一の時を考え、詳しくは書きません)。  そんな中、一家団欒の時間は何にも代え難く、昨日は久しぶりに家族揃って夕餉を囲みました。入院していたお♯@ちゃんが帰ってきて、すき焼きを食べました。ありがたかったです。  ここまで読んで貴女は訝しく思っているでしょう。結局、何が言いたいのかと。  十年後の惨状を訴え、未来を変えてほしいと希っているわけではありません。心積もり――いえ、心身積もりをしておいてほしいのです。  先日病が見つかりました。五年生存率は50%、ならば十年ぐらいはいけるのではと勝手に思っています。  二〇二〇年を境に様々な変化が起きました。  葬儀もその一つで、今、もっともポピュラーなのは食葬です。  現在の我が国では、延命治療は受けられず、お墓を作る土地もありません。病院で死亡すると、葬儀社ではなく、食肉加工業者が呼ばれます。食葬は様々な社会問題にマッチした見送りなのです。  一人息子は昨日、初めて本物の天然肉を食べました。  貴女の身体は繋がってゆくのです。即刻、正しい食生活に改めて下さい。  これは遺言ではありません。未来に向けて送る言葉なのです。    貴女が何になりたいかは貴女の意思が尊重されます。  ちなみに、先日五歳になった息子の好物はハンバーグです(合成肉ですが)。  
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