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それよりも晩御飯
『この手紙を読んでいるということは海岸でこの瓶を拾い、その中のこの手紙を開いてくれたのだと思う。または船上で釣り上げたなんてこともあるかもしれない。まあそれはどうでもいいことだ。
これは告解だ。
私は十年前に殺人を犯した。
一般的にそれが愚かな行為だと責められるのはわかっている。しかし人それぞれの価値観があると紀元前からいわれているように、そのときの私にとってはいかなる罪を背負ってでもヤツを殺すことに一番の価値があった。
私は偶然にもうまく公安の手から逃がれることができた。
だがつい最近になってふと疑問を感じるようになった。
私は本当に私の正義のもとに殺人を行ったのだろうか。
あの殺人は正しかったのだろうか。
それだけが気になって仕方がない。
十年前の自分にもう一度問いたい。しかしそれは神でもない限りできないだろう。
だからこの手紙を書くことにした。
これを読んだあなた。
あなたは十年前の私の殺人をどう思うだろうか。
どうか私の悩みを解決してほしい。
私にとって人生を賭けた問題なのだ。
偶然にも誰も拾わなかったならばそれでいい。それが私の運命だということだろう。
以下に私の本物の名前と住所を書いておく。あなたが私を罪人だと思うならどうか告発して欲しい。
それだけが私の望みである』
*
「ねえ、ママ。さっき貝殻といっしょに拾ったんだけどこの長いお手紙なんて書いてあるの?」
「えーと……あら、外国の言葉ね。ママも読めないわ。捨てちゃいなさい」
「えー。もったいないよ」
「どうせ大したことなんか書いてないわよ。それに海の向こうのことだもの。わたし達には関係ないわ」
「それもそうかなあ。あ、ママ今日の晩御飯はなに?」
「ふふっ。みんなが大好きなものよ」
「あ、きっとハンバーグだ!」
そういいながら幼い女の子はガラス瓶に手紙を詰め直すと波打ち際にポトリと落とした。
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