真昼の星はなぜ見えないのか。

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 三度目の席替え、相良はやはり窓際を獲得していた。しかも窓際の一番後ろという最高の席だ。俺はそんな彼女の隣の席になった。窓にも近いし一番後ろの席だ、反対隣はよくつるんでいる友人だったこともあって、会話が皆無な相良の隣であっても心地がいいと感じていた。  相良のことが気になり始めたのは、新しい席になって一週間が経ったころ。  数学の授業の時だ。数学の初老の教師は、生徒に理解してほしい気持ちがあるのかと疑いたくなるほど、とんでもなく眠たい授業をする。時間割変更で体育の後になってしまったこともあって、その時の数学の授業はほぼ全ての生徒が睡魔と戦っていたといっても過言ではない。俺も例外なく、うとうとと船を漕いでいた。 「では相良。問三、分かるか」  不意に大きくなった先生の声に大きく、かくん、と頭が揺れて目を覚ます。ノートにみみずが這ったようなシャーペンの線が引かれているのに気が付いて、それを消していく。  数学では普段は生徒を当てたりしないのに、どうしてかその日は相良が指名された。線を消し終えてから、消しゴムを手に持ったまま視線を左に向ける。 「……分かりません」  予想通りの答えに、なぜか嬉しくなる。まるで未来予知でもできた気分になって、ふっ、と声を洩らして笑ってしまった。やばい、と思ったのは、切り揃えられた前髪から覗く、ぐりぐりと丸い黒目が素早く俺の方を見たからだ。 「……うざ」  冷たく、やはり小さな声でそう放つと、相良は丸い目をキッと細めて睨みつけてきた。失礼な態度を先に取ったのが俺の方ということもあるが、彼女の反応を見られたことが稀だと嬉しくなって、悪い気分にはならなかった。もう一つ、初めて彼女の横顔以外を見られたおかげで、まるで自分だけが彼女を知っているかのような妙な気分になったのだ。  悪ぃ、とすぐにひそひそ声で返すと、ふいと顔を逸らされる。相当ご立腹らしい。ごめんなともう一度呟きながら、再開した授業そっちのけで目の合わなくなった彼女をしばらく盗み見ていた。
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