真昼の星はなぜ見えないのか。

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「あー……そっか。あ、でももしすぐ終わるなら待っとくけど」 「……えっと……」  心の中でゆっくりカウントを始める。──五、六、七。俺は相良の前の、空いた席に座る。目を丸くして、不思議そうに俺を見たので、愛想の良い笑顔を無理やり作る。 「わり、むしろプレッシャーかけてるよな」 「あ、ううん。ごめん。すぐ、終わらせる」  そう言って相良は取り出したプリントの最後の調整に取り掛かる。俺の目には、殆ど完璧にまとまっているように見えた。なにより、たかがグループ学習だ。議題に真剣に取り組むわけでも、真面目な意見を交わしているわけでもない。所詮俺たちが出した有り触れた意見だ、相良が一生懸命丁寧にプリントにまとめようが、その価値はないように思える。 「偉いよなー」 「なにが?」 「いや、めっちゃ丁寧にまとめてんじゃん。正直俺ら雑談してただけだし、なんか申し訳ねーわ」  丁度、相良が俺の小学生の感想みたいな意見を書いていたのを、じっと目で追う。綺麗な字だし、と素直に言った。彼女の字を見たのは初めてかもしれない。  褒め言葉にも彼女は一切笑わず、ぶんぶんと首を振りながら、そんなことない、と吃りながら言う。 「意見言うの苦手だから。せめて、っていうか……みんなが意見出してくれてるから、これくらいはしないと。……ごめんね、まとめるのも遅くて」  まるで俺が素晴らしいことを成し遂げたかのように、相良の声に重みを感じた。たかがグループ学習だ、ともう一度心の中で繰り返す。どうして彼女が自身を卑下するのか、同級生に対して責任を感じているのか、何一つ理解できない。俺だったら汚い字でなんとなくそれらしい意見を書いて、代わりに出しとくよと言われると、じゃあよろしくと素直に手渡していただろうに。
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