真昼の星はなぜ見えないのか。

7/16
前へ
/16ページ
次へ
 謝罪の言葉に、なんと返事をすればいいかも分からなくなって、彼女の流れるような手の動きを見るだけの時間が過ぎる。しばらくして、その手が止まった。 「終わった?」 「あ、うん。でも、自分で出しにいくよ」  まだ、視線は合わない。用事があるのは変わらなかったので、奪ってでも自分で提出しようかとも思ったが、相良も相良で一歩も引かないような気がした。 「いっしょ職員室行くか」  だから思わずそう言ってしまった。予想していなかったのか、ずっと下を向いていた目線が上がる。ようやく目が合った。ぐりぐりと真っ黒い目はしっかりと俺を見ている。久しぶりに相良の顔をちゃんと見た気がする。日本人形みたいだと馬鹿にされていたのが嘘のように、驚いた顔が可愛い思った。  職員室までの間、会話は少しもない。俺が話題を振ればそれなり話ができただろうが、場つなぎのようなわざとらしい会話をしたくなかった。他の女子生徒であれば思わなかったが、相良だから無意味な世間話は必要ない気がした。  プリントを提出し、自身の用事も素早く済ませる。職員室を出て再び二人で教室へ歩く。二人きりになる機会なんて滅多にない。今だ、と思った。それまですっかり忘れていたのに急に思い出す。  俺は周りに人気がないことを確認して言った。 「なあ、なんで刺青入れてんの」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加