真昼の星はなぜ見えないのか。

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 彼女に聞くことも怖くて、声が震えそうになるのを必死で堪える。相良の方を見ることすらできなかった。なんで知ってるの、と驚いた顔をすることも、なんのこと、と惚けることもしない。先ほどまでのように目を泳がせて吃りながら言い訳することもない。 「なんで誰にも言わなかったの?」  誰もいない廊下にすーっと駆け抜けていくような通る声だった。あの小さな声でぼそぼそと教科書を音読する姿も、そこにはなかった。 「……なんでって。言って欲しかったのかよ」 「ふつう、言うと思う」 「相良は隠したいのかと思ったんだ」 「隠したかったら、はなから刺青なんか入れない」  むちゃくちゃな意見だ、と溜息を吐きながら髪をがしがしと掻く。理解できない、何もかも。視線を感じて見れば、相良はじっと俺を見つめている。すっかり足を止めた彼女に合わせて立ち止まって、応えるように彼女の目を真っ直ぐ見る。  俺の知っている相良とはまるで違う人物のように思えた。知る限りでは音読の声が小さくて、当てられたときは必ずと言っていいほど「分かりません」と蚊の鳴くような声で答える、物静かな奴。視線も合わせずに自分を卑下する、自尊心の低い奴。目の前にいるのはそれらのどれでもない、知らない「相良」だった。
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