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「……自分のことが大っ嫌いだから」
「なんだそれ。それが、入れた理由?」
「そう」
清々しいほど、迷いのない答え。自分が嫌いだと言う割には自信に満ちた表情をしている。俺はそのときどんな顔をしていただろうか。そんなことないよ、と薄っぺらい慰めの言葉をかけてやれるほど相良のことをよく知らなかったが、全く興味を惹かれないわけでもない。いやむしろ、自分では絶対に踏み入ることのない世界にいる相良に、畏怖と憧憬の念を抱いている。
「こんな性格だから誰にも好かれないし、必要とされない。だからって虐められるわけでもない」
授業の始まりを告げる鐘の音が二人だけの廊下に鳴り響く。その音に声がかき消されてしまわないよう、俺は相良にもっと近づいた。手を伸ばせば容易に触れられるほど近くに。
「だから私がこの世界にいる印が欲しかった。それが痛みでもいい。誰かに怒られてもいい。ただ──」
相良はゆっくりと髪を掻きあげて、右耳を露わにさせる。白く細い首筋と、普段は隠れている耳の後ろにさりげなく存在する大小二つの星の刺青。見てはいけない気がしたのに目が離せない。髪を搔き上げる仕草も、女性の首筋を見せられるのも、思春期男子高校生には刺激が強い。身体中から速まる心臓の音が聞こえてきて、授業開始の鐘の音とともに、まるで警告音のように頭の中で響いた。
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