真昼の星はなぜ見えないのか。

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真昼の星はなぜ見えないのか。

 俺はそいつのことをよく知らない。  知っているのはほんの少し。高二になってクラスが一緒になったそいつの名前は「相良(さがら)」。音読の声が小さくて、当てられたときは必ずと言っていいほど「分かりません」と蚊の鳴くような声で答える。  名前を聞いて思い浮かぶのは横顔ばかり。休み時間はいつも目を伏せがちに携帯を触っていて、肩に付かない程度の長さの髪が彼女の顔を隠している。なぜ横顔が印象的かといえば、そいつが席替えのたびに窓際の席を獲得しているからだ。  窓際の席は退屈な授業を耐え忍ぶために都合がいい。古の呪文のような教師の声を右から左へ受け流しながら、グラウンドでソフトボールをする生徒を見ることだってできる。俺は席替えが近づくにつれて、今度こそ窓際の席を獲得したいと願っているのだが、授業をサボることしか考えていない煩悩は神には叶えてもらえないらしい。  とにかく何の考えもなしに窓を見ようとすれば、必然とそいつの横顔が視界に入ってしまう。前下がりに切り揃えられたボブヘアーは、果たして伸びているのだろうかと思うほどずっと同じ長さ。陽気に喋っているところを見たことがないのもあって、日本人形みたいなやつだと男子生徒らが馬鹿にしていた。まあ別に、特段彼女を虐めてやろうなどという仕様もないことはなかったし、かといって無理して彼女を和に入れようともせず、相良は教室にいてもいなくても変わらないような、空気みたいな存在だった。  本当にそれ以上のことは知らない。“携帯依存の座敷わらし”、クラスメイトと同じ認識だった。
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