初 恋

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 あ、まただ…。  この春スイミングコーチとして入ってきた主婦さんたちに大人気のケイトコーチ。  引き締まった筋肉美とは対照的なまだ幼さの残る可愛い笑顔。  まだ23歳とか言ってたっけ。  その彼とよく目が合う、なんて言ったら自意識過剰だと思われるのがオチなんだけど。 「酒井さん」  ジムの帰り道で私の名前を呼ぶ人。  振り向くとあのケイトコーチだった。  ペコリとお辞儀したその人は私の顔をじっと見て。 「あの、酒井あすかさんって」  え?!フルネームまで知ってるなんて、いよいよ?!まさか!!  皆の人気者ケイトコーチからの?!  ドキドキと次の言葉を待った。 「宮城のA町の花村あすかさん、ですよね?」  ……まさか以上のドキドキだ、これ、え?! ストーカーなの?!  怪訝な顔が表に出たのだろう、彼は慌てて。 「オレ、ケイト!! 高山ケイト! わかんない?」  必死な顔をして焦る彼をじっと見つめると。 『ケイちゃん、お漏らしする前に先生にトイレ行きたいって言わなきゃダメよ』 『あいっ、あすか姉ちゃんっ』  ズボンをビッショリ濡らしてえぐえぐ泣きながら新一年生の彼は六年生のの集団下校リーダーの私に手をひかれて帰った。 「あー! ケイちゃん!」  あの、ケイちゃん?! 「うそ、こんなに大きくなって!! 何でもっと早く声かけてくんないのよ」  バシバシと田舎のオバチャンみたいに彼の身体を叩くと苦笑いして。 「ずっと気付いてて、いつ声かけようかって」  恥ずかしそうに笑ってた。 「これ、覚えてる? 読んでみて」  何度か二人で一緒に遊んだ、家が近いこと、地元が一緒なこと、何となく昔馴染みは一緒にいて安心できるから。  何度目かの居酒屋で目の前に出されたものは花模様の封筒に『ケイくんへ』と書かれた、見慣れた文字。  ……、頼むからこんなもの持ってこないで欲しい。   『あすか姉!!コレ!』  彼が中1の3月、高3卒業間近の私に真っ赤になって手紙をくれた。  思春期真っただ中の男の子がくれたものが可愛くて、でもそんなに年下の子に告白されてもな、って。  その返事がコレだった気がする、いや、これだ。  私は東京の大学に行くの  いつかケイくんが東京に来て大人になっても私のことが好きだったらちゃんと考えるね  10年前の私よ、これは責任の押し付けではないか。 「まだダメ? あすか姉? オレ、まだ大人になれてない?」  なんて甘えられたら……、ねえ。  「ちゃんと、考えます」  苦笑した私に嬉しそうに飛びつく大型犬はいつも可愛いくて…。
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