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「ふーん、なるほどな。確かに稲妻はきれいだな。雨の音もきれいだ。美人の美雨にすごく似合う名前だ」
美雨の艶やかなストレートの黒髪にキスをした。
「あーっ、 いま褒めたね! 遥希くんはね、褒めたあとはいつもこう言うの。じゃあ、そろそろ帰ろうかなって」
「ブッ、ハハハッ、すごいな。今マジで言おうと思ってた」
笑って誤魔化したけれど、僕の笑顔は引きつっていたかも知れない。
美雨は僕のモノローグにひどく敏感だ。
「ダメよ。帰さない! 雨がやむまで帰らないって言ったでしょ」
美雨は涙ぐんで僕の胸に顔をうずめた。
「僕だって帰りたくないんだよ。美雨と一緒に朝まで雨の音、聴いていたいよ」
「じゃあ、帰らなければいいじゃない」
抱きついた腕に力を込めて美雨は言った。
「わかったよ。ずっといるよ。雨の音、美雨と一緒に聴いてる」
美雨と抱き合いながら、五分ほど静かに雨の音を聴いていた。
「雨の音って哀しいね。 遥希くん……もう、いいよ、帰っても。いつもと同じだもん」
「おなじって? なにが同じなんだい?」
「私が帰ってもいいよって言うのを知ってて泊まるって言うでしょ、遥希くんは」
「うーん、、美雨は鋭いな。でも、僕がどうしても帰るって言ったら、美雨は泣きながら帰らないでって言うだろ」
お互いに学習してしまったんだな、僕たちは。
「あと、三十分だけ居てくれる?」
潤んだ美雨の目を見て切なくなる。
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