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『十年後の美喜へ
13歳の貴女に手紙を送ってから10年が立ちました。
元気にしてる?
私は貴女の13歳の姿も、23歳の姿も知りません。
23歳……。ちゃんと立派に育ってるのかしら?
結婚して、子供がいたりして!』
手紙の中の母はテンションが高い。確か、10年前の手紙もそうだった。
『素敵な人と出会ってるといいな。花嫁姿はどんな感じなのかしら?
スーツ姿も見てみたいし……。あ、そうだ。成人式は何を着たの?
ちゃんと良い振袖を着たのかしら?
想像するだけでワクワクする。
貴女のことを考えると胸がいっぱい。
今の貴女に会えた喜びも大きいけれど、未来の貴女にも会いたかったな。』
その言葉に私は目頭が熱くなっていることに気がついた。
彼女の本音に触れて、胸が熱くなった。
『私はまた10年後、貴女に手紙を送ります。
お父さんにもどうか気遣ってあげてね。
そして、10年後、貴女はどうか幸せになっていると言いきれる貴女でいてください。
愛してるよ、美喜』
変だ。目が霞んでいく。目が熱い、胸も熱い。
母はこの家で私を育ててくれた。
母はたった3年間だけど、私を愛してくれていた。
それだけで嬉しくて、涙が溢れてくる。
「お母さん……。私も会いたいよ……」
20年前の記憶がもっとハッキリしていたら……。
あるいは、本当に夢の中で母に会えたかもしれない。
やがて引っ越し業者がダンボールを運んでいく。
空っぽの部屋は私の気持ちを寂しくさせた。
でも、家が変わったからって母の愛情は変わらない。
「また10年後、お母さんを待ってるよ」
妙に部屋に響いた言葉は、きっと母に届いたに違いないと確信した。
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