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実家が引っ越すというので、手伝いに行った。
とくに思い入れがあるわけではないけど、ダンボールだらけになった部屋を目の当たりにするのは、さすがに何か込み上げてくるものがあった。
父もそうだったのか、なんだか妙なテンションでいた。
「お前がかくれんぼしていたのが懐かしいな」
それ、3、4歳のとき……。
「あ、これ渡しておく」
ポンと手渡されたのは青い便箋。記憶にある。前にもらったのは確か、10年前だ。
「トラック来るまで読んでていいぞ」
そう言って、別のことをやりに父は去って行った。
──私には母がいない。
私の母は3歳のときに、乳癌で亡くなっている。なんとなく抱き締められていた記憶はあるが、朧気だ。
母は私にとって夢の中の住民。
いつも、はっきりとした輪郭を持たない。
手紙を開いて読む。
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